2024年秋、岡山県北部の地域において、国際芸術祭「森の芸術祭 晴れの国・岡山」が開催。
名称 森の芸術祭 晴れの国・岡山
会期 2024年9月28日(土) ― 同 11月24日(日)
エリア 岡山県内の12市町村(津山市、高梁市、新見市、真庭市、美作市、新庄村、鏡野町、勝央町、奈義町、⻄粟倉村、久米南町、美咲町) アート作品設置市町 津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町
アートディレクター 長谷川祐子 主催 「森の芸術祭 晴れの国・岡山」実行委員会
会⻑ 伊原木 隆太(岡山県知事)
どんな感じかな?範囲が広く、その中から、以前から気になっていた鍾乳洞2カ所を訪問。



森の芸術祭 岡山
撮影:蜷川実花
満奇洞 まきどう
「まきどう」と読むのか!ずっと勝手に「まんきどう」だと思い込んでいた。
住所 岡山県新見市豊永赤馬2276-2
車で、新見から向かう。分岐点から9km。ぐんぐん山の方へ進む。
洞窟の暗さと、天井の低さに、何度か頭をぶちつけつつ、鍾乳洞を進む。
ほぼ一番奥に近いところに彼岸花が咲き乱れたインスタレーションが、赤く浮かび上がった。

時々聞こえる救急車の音。
見ることにハードルを加えた、健康でないと体験できない鑑賞方法。
鑑賞以前に、洞内を歩くことに必死で、存在や死生観にまで及ばなかった。
1本1本彼岸花を冷たい水の中に植えた人々、機材を準備した人たちを思う。
蜷川実花 with EiM 空間インスタレーション
深淵に宿る、彼岸の夢
Dreams of the Beyond in the Abyss
「深淵に宿る彼岸の夢(Dreams of the Beyond in the Abyss*)」は、岡山県にある満奇洞という鍾乳洞を舞台に展開される体験型のアート作品です。鍾乳洞という異世界へ入る過程で現実の境界を超え、その中で展開されるインスタレーションを通して、鑑賞者の深層にあるさまざまな感情体験を想起するものです。
与謝野鉄幹・晶子夫妻は満奇洞を訪れた際に、「冥府の路を辿るやうな奇怪な光景」と評しました。このように神秘的な美しさを讃える鍾乳洞に足を踏み入れることは、畏敬を感じつつ自然が生み出した悠久の時の流れと対話する行為でもあります。黄泉めぐりともいえる一連の体験は、日本におけるイザナギ神話だけでなく、ギリシャ神話、メソポタミア神話、ケルト神話やマヤ神話など多くの地域で古くから語り継がれるテーマです。鍾乳洞という時間を超える舞台装置は、古来から語られる物語につながる体験を生み出すものになります。
鍾乳洞に入ると鑑賞者は青い光に包まれた空間へと導かれます。満奇洞の内部に拡がる鍾乳石が、青い光の中で幻想的に照らされることで、浄化につながるような感覚を得られるでしょう。青い光の空間は出入口に位置するため、鍾乳洞の狭く曲がりくねった道を通った後の最後の体験にもなります。心の中の迷宮を進むような感覚の後に体験する青い光は、内面的な再生のプロセスを強調します。
鍾乳洞の奥で鑑賞者は、彼岸花が織りなす赤い空間に飲み込まれます。満奇洞の最奥に位置する神秘的な空間の静寂は、彼岸の象徴としての赤い花々と共鳴し、鑑賞者に多様な感覚を呼び起こします。魅惑と不安、生と死、緊張と解放、儚さと普遍、諦観と希望、終わりと始まりなど、彼岸の夢といえる体験がそこにあるでしょう。深淵をめぐった鑑賞者が地上へと帰るとき、そこで見た夢や感情がどのように現実に影響を与えるのか?黄泉めぐりにつながる一連の体験は、鑑賞者に対して多様な感覚と内面的な反応を引き起こします。それが単なる視覚的な美しさにとどまらず、存在や死生観に触れる体験となり、訪れる人々にとって忘れがたいものになることを私たちは願っています。